はじめに

はじめに

  近年スマートフォンやタブレットの普及もあり、消費者行動が変化している。企業ではカスタマーエクスペリエンス向上の重要性が認識されているなかで、その重要なツールの1つとして「カスタマージャーニーマップ」という言葉がよく聞かれるようになった。その手法が注目されている背景として「サービスデザイン」という考え方がある。
  サービスデザインとは、『これからのマーケティングに役立つ、サービス・デザイン入門』(J・マルゴス・クラール:2015)によると、「ビジネスを顧客の視点から体系的に編成する取り組みである。」そして、その目的は、企業と顧客のインタラクションのあらゆる局面において、快適なカスタマー・エクスペリエンス(顧客経験価値。商品やサービスを購入したり使用したりする経験によって得られる感覚的、感情的な付加価値)を提供することにある。
  良質のカスタマー・エクスペリエンスの提供は、10年前、20年前、あるいは30年前から望ましいとされていたが、それが競争優位を獲得する唯一の方法ではなかった。当時は、マーケティング力で他社を凌ぐこともでき、単純に製品の良さや、市場への参入障壁の高さで差をつけることもできた。しかし、今やあらゆる品質は世界共通となり、企業名で差異化をはかることはできない。競争優位をもたらすのは、それらの企業がどのように製品やサービスを提供するかという時代へと変わった。
  これは、専門技術の民主化とグローバリゼーションの相乗効果が生み出した新しい状況である。日中休みなく、低コストでアクセスできるインターネットは、新しい業界(アプリ業界、モバイル・サービス業界など)を創出した。人々は様々な形でつながり合い、マーケッターのコントロールが及ばないところでピア・レビューを行い、それが製品やサービスに関する最も信頼できる情報源となっている。良くも悪くもそのために、グローバリゼーションが進み、貿易障壁が削減され、競争が激化している。人々は今、世界のどこからでも、自分にとって最良の製品やサービスを選べる権利がある。こうした中で競争優位を獲得するためのカギは、製品やサービスをどのように提供し、どのような経験を味わってもらいどうデザインするかである。

カスタマージャーニーマップの背景

  サービスデザインという言葉が使われるようになったのは、1990年代初頭となる。この頃、ドイツのKöln International School of Designにて、その後サービスデザインコミュニティの中心人物となるMichael ErlhoffとBirgit Magerの両教授によるサービスデザイン教育プログラムが開始された。また、同時期にPolitecnico di Milano(ミラノ工科大学)では、Ezio Manzini教授がサステナビリティの観点からサービスデザインの重要性を主張し、サービスデザインの学位を発行した。
  当時、すでにサービスサイエンス、サービスマネジメントと呼ばれる分野は生まれており、研究が進められていた。こういった中で、Citibankの元副社長であったLynn Shostackが、1980年代初頭にサービス設計のための手段としてサービスブループリント(Service Blueprint)を提示した。サービスブループリントとは、THIS IS SERVICE DESIGN THINKING.Basics-Tools-Cases 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計』(マーク・スティックドーン、ヤコブ・シュナイダー:2013)によると、「ひとつのサービスを構成する個々野要素を特定し、その詳細を明らかにする技法である。」
  通常は表を作成し、ユーザ、サービス会社、その他の関係者のそれぞれの視点でサービスの概要を明らかにし、顧客接点から広報業務に至るサービスのすべてを詳しく図解する。そうすることで、ひとつのサービスを構成するすべての要素をリストアップし、概略を図解する資料となり、これを見れば、特に重視すべきテーマや複数の領域にまたがるテーマなどがわかる。
  サービスブループリントは、従来の品質管理手法をもとに生まれているが、この、サービスを包括的にとらえる手法をユーザ観点にしていったものがカスタマージャーニーマップであるといえる。
  このようにサービスデザインとは、サービスサイエンスやサービスマネジメント領域に、デザイン思考や人間中心設計(HCD)的なアプローチ、サービスとプロダクトの融合などの観点を加えていった領域横断的なものとして発展を遂げていった。

カスタマージャーニーマップとは?

  『THIS IS SERVICE DESIGN THINKING.Basics-Tools-Cases 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計』(マーク・スティックドーン、ヤコブ・シュナイダー:2013)によるとカスタマージャーニーマップとは、「一つのサービスが提供するユーザエクスペリエンスをビビッドに、なおかつすっきり構造化して図解する技法である。」(一例の画像は下に示している。)
  ジャーニーとは、ユーザエクスペリエンスに基づいて形作られる魅力的な一つのストーリーのことであり、そのストーリーは、インタラクション細部や、それによって顧客が味わう感情を、非常にわかりやすく伝えることができる。ジャーニーを構造化するときは、ユーザとサービスとのインタラクションが発生するタッチポインを基準にして考える。
  サービスデザイン思考は、探求、設計、再構成、実施の4つの作業で構成されるサービスデザインの反復プロセスで進行していく。カスタマージャーニーマップは第一段階の探求段階で用いるツールであり、サービスデザイナーが解決するべき問題を特定することや、サービス対象層の行動や心情を探り、できるかぎり顧客の背後にある真のモチベーションに近づき、既存顧客や見込み顧客の視点から状況を明確に理解することができる。

カスタマージャーニーマップの一例

  これは一例であり、構成要素は標準化されていないため、用途によって要素を使い分ける必要がある。
カスタマージャーニーマップの一例

あるウェブキャンペーンを想定したカスタマージャーニーマップ
引用先:・web担当者Forum「カスタマージャーニーマップで顧客の心を見つめてサイトを改善、
5つの作成ステップと7つの実例」

  時間軸で利用シーンを順に追い、複数のチャネルやタッチポイントのなかで顧客がどのようにアクションしてゴールまで到達するのか、その過程でどんな気持なのかを表現する。

PAGE TOP